お伝えしたい3つのこと
(1)紙芝居の演じ方が違えば、子どもが得る能力も違ってくる
(2)子ども自らが紙芝居を作って演じることを後押ししよう
(3)大人は子どもがチャレンジするのを見守るだけでいい
子どもが成長過程で獲得する能力は「認知能力」と「非認知能力」に分けられます。
「認知能力」は、読み書きや計算、記憶などIQで測れるような能力です。
「非認知能力」は、「社会情動的スキル」とも呼ばれ、子どもたちが実体験することで生まれる能力です。
「社会情動的スキル」は、アメリカの経済学者ジェームズ・J・ヘックマン氏の言葉です。
感情の動きを人とのコミュニケーションに活かす力、「思いやり」「自信」「忍耐力」など、他者とコミュニケーションがとりやすくする力で、集団の中でも、個人としての充実を感じながら、スムーズに生きていきやすくなるスキルと定義されています。
子どもの幼児期の環境を豊かにすることが、将来的な成功をもたらす大きな要因になるという見解が「経済効率の視点」から語られています。混沌とした時代を柔軟に生きていくスキルと考えられています。
紙芝居の演じ方によって、子どもが獲得できる能力がどのように違うのかを考えてみましょう。
「紙芝居の演じ方:読み聞かせ型」「物がたり完結型」とも言います。
演じ手は、紙芝居の絵の裏の「裏書」に書かれているストーリーやセリフをそのまま声に出して、演じます。
もともと「紙芝居」はラフなストーリーを記憶しておいて、子どもたちの反応を見ながら、話をふくらませたり、削ったりしながら物がたりを作り上げていく「語りの文化」です。
声の強弱や語りのテンポ、間の取り方などのテクニックを活用したとしても、裏書を忠実に読んでいくということになると、「書き言葉」で編まれた「記号的な情報」を子どもたちに伝えることになります。文字に書かれたテキストを正確に伝えようと意識しすぎると、紙芝居が機械的に文章を伝達する作業になってしまいます。
演じ手と子どもたちとの間に生まれる対話が希薄になると、その場で子どもたちの中に生まれる熱気や感動、喜びが減ってしまうことになります。テキストとして整理された「記号で編まれた物がたり」を定式化された言葉で読むことは、大人の価値を押し付けることになりかねず、そうなると子どもたちの中に「想像力」が立ち上がってこなくなるのです。
「紙芝居の演じ方:子ども参加型」
教育性が前面に出ると子どもにはつまらない。
娯楽性が前面に出れば、大人は「教育的ではない」と言う。
子どもと大人とでは、芸術性の受け取り方が違う。
教育性、娯楽性、芸術性といった要素をバランス良く兼ね備えた紙芝居の作品を作ることは簡単ではありません。
演じ手には、次のようなスキルが求められます。
(1)子どもとの接点を作る力量。「作品を読み取る力」と「子どもの心を読み取る力」
(2)子どもの「おもしろさを求める気持ち」と「大人が伝えたいと思うもの」を繋ぐ能力
(3)わくわくする「場」の雰囲気を作り出す能力
紙芝居を一緒に楽しむ他の子どもたちとの一体感を感じる「場」は、「紙芝居」「子どもたち」「演じ手」で構成されます。
演じ手は、観客から見えるところに立って、子どもに問いかけをするとそれに子どもが反応して答えます。その答えを絵で確かめながら、紙芝居を進行していきます。
高橋五山は、著書「紙芝居の創造と教育性」のなかで、次のように述べています。
(1)観客が幼児の場合、演者は「上から」教えるような演じ方になりやすい。
(2)実演に自信がないと「下から」媚びるような、おもしろがらせようとする気持ちになりやすい。観客に大人がいる場合には、ことにそうなる。
(3)幼児であろうと対等にいけ。そうでないとほんとうに幼児の心とふれ合うことはできない。
子どもは、教えられなければ学ばないという未熟な存在ではありません。生まれながらに主体的に学ぶことができるものなのです。
体験を通じて、自分の内側から湧いてくるわくわく感やおもしろいな、きれいだな、もっと知りたいなといった気持ち(情動)が高まることで、次第に心を奪われて熱中するようになるのです。
なにかを学ばせようとするのではなく、こどもが元々持っている「やろうとする力」を認めれば、もっとやりたいという気持ちを育み、能動的、主体的に知ろうとする意欲が湧いてくるのです。
子どもは、遊んでいる時は現実から解放されて、虚構の世界に自分を置くことができるのです。認知能力を高めることを求められる偏差値社会から離れて、自分らしい「物語り」を創造するのです。
「紙芝居 これからの課題」
1935年に東京帝大を卒業して小学校の教師となった「松永健哉」が「子ども自らによる文化創造」を掲げて、校外教育としての「教育紙芝居」の活用を提唱し、紙芝居のもつ効用を次のように説明しました。
「普及のしやすさ」
演じるための高い技術を必要としない。経済的な負担が大きくない。いつでもどこでも演じることができる。
「伝えやすさ」
単純明快に表した絵を使って、観客の反応を見ながら、ことばを選ぶなど自由にアレンジできる。
「おもしろくてわかりやすい」
絵を通してハラハラ、ドキドキするような展開が繰り広げられるので、おもしろくて、わかりやすい。
松永健哉は、「子どもたち自らがグループで紙芝居を作って、演じてみて、互いに批評しあうこと」を紙芝居の教育的な意義と定義したのです。
昭和39年に発令された「幼稚園教育要領」では、次のように説明されています。
(1)絵本、紙芝居などに親しみ、想像力を豊かにする
(2) 見たこと、聞いたこと、感じたことを「紙芝居や児童劇などで表現する」
高橋五山は、保育の現場で幼児と一緒に作る「はり絵紙芝居」を考案しました。子どもたちに紙芝居を見る喜びとともに、子どもたち自身が紙芝居を作るきっかけとなることを意図したものです。「ヨクバリイヌ」「ベニスズメトウグイス」「コトリノユメ」「てんからおだんご」「こぶたのけんか」「けんかだま」など
こどもの「あそび道具」の販売や、「室内の遊び場」の運営をしているボーネルンド社は、「遊びから未来を変える」と謳っています。
ボーネルンド社が、「おもちゃ」や「玩具」ではなく、「あそび道具」と呼んでいるのは、もともと子どもには「遊びたい」という意欲があって、そのために子どもに使われる「生活の道具」だからです。あそび道具をどう選ぶかは子どもが決めて、大人は、子どもができるようになったことを喜ぶ視点があればいいと言うのです。
(1)「自己に関わる心の力」
自分を大切にし、感情を適度にコントロールでき、自己を高めようとする力
自尊心や自信、自己肯定感「きっとできる」と思える自己効力感
(2)「社会性に関わる心の力」
他の人を信頼し、うまくやっていくための力(協調性や思いやり)
自分が楽しめること、幸せに思えることを見つけていくと同時に他の人にもその気持ちがあることを認め合い、共鳴していく
おもしろい「場」の空気を創りだす(仲間と時間を共有した風景は残る)
集団の一体化の心地よさ(共通の思い出や価値を分かち合う経験)
子どもの「好き」を大切に育てたとしても、社会に多様性を受け入れる価値観が備わっていないとその「好き」が否定されてしまう。
これからの紙芝居の課題は、「子どもたち自身が作品を作って、自らそれを演じるようになる」ことでしょう。
大人が語りすぎると、子どもが物語を作る意欲を奪ってしまう
大人の価値を押し付けると、子どもの中に想像力が沸いてこない
教育を成功に導く唯一の方法 それは何もしないで、すべてをやり遂げることだ
一見何もしていないように見えながら、子どもたちは主体的に物語を作り上げていく
ルソー著「エミール」岩波書店より
参考資料 「紙芝居 演じ方のコツと基礎理論のテキスト」子どもの文化研究所編
「非認知能力をはぐくむ絵本ガイド」寺島知春 著(秀和システム)
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