(4)紙芝居を演じる

絵本「いやいやえん」や「ぐりとぐら」の作者の中川季枝子さんは、「絵本でも紙芝居でもおもしろくなかったら、子どもたちはシャッシャッとどこかへいなくなってしまう。だけど、気に入った話なら何回でも聞いて、同じところで笑うんです。だから、子どもは厳しい先生なんです。」とおっしゃったそうです。

中川さんと対談した児童文学作家のあまんきみこさんは、「中川さんは日ごろ大勢の子どもたちを見て、会話しながら、いらない言葉をそぎ落とす力を持たれたのだと思います」と述べられています。

絵本では、子どもがひとりで読むだけではなく、大人が子どもたちに絵本の読み聞かせをすることもあります。読み聞かせは「読み手と聞き手とのあいだの心のキャッチボール」と言われ、子どもたちの呼吸を感じながら、読み手と聞き手が一緒に物語の世界を完成させていく時間なのです。

「子どもが想像力を育てるためには、絵本は、読み手の感情は一切入れずに淡々と読むべきだ」という意見があります。しかし、心に自然に湧いてくる感情を込めて、読み手が臨場感を出して読むと、子どもたちは集中して楽しそうに聞いてくれます。子どもたちの感受性や共感力、コミュニケーション力を育むのに役立っているのです。

「ひとこと化-人を動かす短く、深い言葉の作り方」の著者坂本和加さんは次のように述べています。

相手をわくわくさせよう、興味をもってもらおうとするなら、自分の脳の「むずかしく考えるモードをオフにする」ことが大切です。自分自身がまるで子どものように「わくわくモード」で考えるのです。おもしろがって子どものように話せれば、話を聞いている人たちもわくわくモードになります。

(1) 紙芝居では、舞台(木枠)を使って、作品のもつ世界に観客を誘います。

舞台に三つの扉が付いていたり、扉がない舞台の場合には、「幕絵」を作品の前に差し込んでおくのは、扉を開けたり、幕絵を引いて外すことで、紙芝居の夢の世界に観客を案内するためです。

紙芝居を始める時には、体の正面を聞き手に向けて、作品のタイトルや作者名を言います。それを聞いて、聞き手は「さあ、いよいよ紙芝居が始まる!」とワクワクした気持ちになるのです。

その時に、ニコニコしている人や感じがいいなと思った人を見つけたら、アイコンタクトをします。そうすることで、気持ちが落ち着いてくるのです。演じている時に、せわしなく、いろいろな人を見ることはしないようにしましょう。

演じている時に、聞き手が「つまらなそうに見える」「反応があまりない」と感じたら、聞き手に質問をしてみます。それに反応して答えてもらえたら、それから聞き手は「参加している気持ち」になって、よく聞いてくれるようになります。

紙芝居では、作品の世界に聞き手が共感してくれることがもっとも大切とされていて、そのためには語り手と聞き手との間でコミュニケーションがとられていることが求められます。例えば、観客の子どもからの声かけがあった場合には、語り手は言葉や表情によるアドリブでリアクションをします。

紙芝居が終わった時には、「これでおしまい」と告げて、扉を閉める、あるいは幕絵を舞台に差し込むことで、観客に余韻を感じさせながら、夢の世界から現実世界に連れ戻すのです。

(2)紙芝居は、どのような内容(タイプ)かで、演じ方が違います

①  ワクワクするドラマチックな作品
文楽人形を操る黒子のように、演じ手は聴衆からはあたかも「存在していないもの」として、見えているけれど、意識されないことが理想的と言われます。

②  こども参加型の作品
演じ手は、語り手であると同時に「狂言回し」の役どころを務めます。狂言回しは、観客に物語の進行の理解を助けるための役割を果たしています。
こどもに語りかけると子どもが反応して声を上げます。その反応を受けながら、紙芝居を進行していきます。

(3)紙芝居のせりふや語りは感情を入れる、それとも入れない?

子どもたちの想像力やイメージをつかむ力を育むためには、自分の感情を入れずに言葉を淡々と発するべきだと言われています。しかし、自然に湧いてくる感情を込めて語りかけるほうが、子どもたちは、楽しそうに聞いてくれます。

感情を入れるのか、それとも入れないのか、どちらにするかを決めることはむずかしいのですが、子どもたちの心にどんなことを残してあげたいのかを考えて、それがうまく伝わる方法を工夫すればよいのだと思います。

(4)紙芝居の演じ方には三つの基本があります。

基本【1】声の出し方

物語性のある作品の「会話(せりふ)」「語り(地の文)」「オノマトペ(擬音語・擬態語)」

① 「会話(せりふ)」
紙芝居では、登場人物の心理描写を「会話(せりふ)」で、おおよそ表現できます。
登場人物が誰に向かって、どんな状況で、どんな気持ちで話しているのかがしっかり分かるようにする。
声は、「高い・低い」「ゆっくり・早口」「強く・弱く」「明るく・暗く」を組み合わせて、「それらしく」演じるように工夫します。
登場人物らしく演じようとして「声色」を変えようとする必要はなく、楽な発声で気持ちや状況を伝えることを念頭に「それらしいイメージ」で、演じれば良いのです。
自然体で方言を使って演じることは、親近感をもってもらえます。
言葉のもつニュアンスを上手に表現することは大切ですが、きれいな言葉、美しい言葉を使うように心がけたいものです。
アニメの「ドラえもん」を演じた声優の大山のぶよさんは、ドラえもんのキャラクターを礼儀正しい未来のネコ型ロボットとして演じました。そして、ガキ大将の「ジャイアン」の「のび太」に対するセリフも、元々の台本では「バッキャロー」だったのを「のび太のくせにィ~」に変わったのです。
大山さんは、ドラえもんは「幸せな世界をずっと見せ続けている作品」だから、こどもたちが覚えやすい悪い言葉を使わないのだとおっしゃっていたそうです。

② 「語り(地の文)」

語りは、紙芝居の「情景描写」や「状況説明」を担っているので、聴衆が理解しやすいように、はっきりした言葉を使うことが求められます。
感情に流されて、自分だけがいい気持ちなってしまうようなひとりよがりの語りにならないようにしましょう。
情景や状況を表す言葉では、その語感を大事にして、ニュアンスがうまく聴衆に伝わるようにします。
人が瞬間的に理解できるのは、書き言葉では「13文字」、聞くのは「15秒」=文字数では60字ぐらいに当たります。
数字についてのミニ知識として「3はマジックナンバー」というのがあります。
ももたろうのけらいは、犬、猿、キジの3匹です。「3匹の子ブタ」もよく知られています。
アメリカのリンカーン大統領の言葉「人民の 人民による 人民のための政治」
オバマ大統領の「YES WE CAN]
牛丼の「吉野家」のキャッチコピーは「うまい やすい はやい」の3つの言葉です。ただし、感覚的な表現ではなく、どの店舗でも目指さなければならない指針でもあったのです。

③ 「オノマトペ(擬音語・擬態語)」

日本語には擬音語や擬態語の「オノマトペ」が数千語あると言われます。子育ての場面で多く使われるので、オノマトペ=幼児語と捉えられている面があります。
日本語にオノマトペが多いのは、「動詞などの語彙が限られている」ので、それを補うために様々なオノマトペが発達したのではないかと考えられています。
擬音語は、「ニャアニャア」「ドンドン」「ザーザー」など動物の鳴き声や物が出す音などを表現するものです。擬態語は、「キラキラ」「シーン」「ワクワク」と実際には音がしない状態や気持ちの様子を例えて表現したものです。
発達段階にある子どもにとっては、オノマトペを使っての語り掛けは効果があると言われます。
「犬がワンワン吠える」「車がブーブー走る」と話しかけると、子どもの脳は「実際の音を聞き分けるところ」と「言葉を聞き分けるところ」の両方が働いていることが分かったのです。

脳科学者の川島隆太氏は、「オノマトペは、子どもの左右の聴覚野を広い範囲で働かせ、脳を育てる効果があり、発達途上の子どもの脳には、このような働きかけが有効である可能性がある」と発表しました。

紙芝居の作品にも、オノマトペはたくさん登場しますが、あまり凝りすぎないようにすることも必要でしょう。

④「ことばを印象づけるテクニック」

(1)「ゆっくり」と「声を大きく」
ことばの印象が強くなって、聴衆の聞き逃しや聞き間違いを防げる

(2)「高い音程」と「間をあける」
大事なことをいう前に「1秒」黙って聞き手を見る。伝えたい気持ちが届きやすくなり、注目を集められる
(3)語尾まではっきりと声にする
(4)メリハリをつける
早口すぎると聞き取れない
ゆっくりすぎると眠くなる
*テクニックは使いすぎないようにしましょう。

「出しにくい音」

日本語には「出しやすい音」と「出しにくい音」があって、出しにくい音を意識せずに発音するとその音だけが知らずに小さくなってしまいます。

一般的に、ハ行とサ行は「出しにくい音」なので、よりていねいに発音しましょう。
「はな」   → 「あな」
「ぜんたい」 → 「せんたい」
(例)
きせつのショートケーキ   → しせつのしょうどくえき
いっぽいっぽ たっせいする → いっこいっこ はっせいする
もみあげをかる       → おみやげをかう
かんぜんないなか      → あんぜんなひなた
じまんのやきサバ      → いちばんのやきそば

「体言止め」

インパクトのある言い方になります。
Before 川沿いの桜がきれいです。桜並木は名所ベスト3に選ばれました。
After  川沿いの桜。名所ベスト3に選ばれた桜並木。

「声のテクニック」

「せりふ」

複数のキャラクターが登場する場合、声色(こわいろ)で演じ分けようとしてしまいます。
声色のパフォーマンスは、一時的には聞き手に「ウケ」ますが、自己満足の演出で、聞き手の物語への集中力をじゃましてしまう可能性があります。

人は誰もが同じ声の大きさや速さでしゃべるわけではありませんが、声色(こわいろ)を変えるのではなく、その人物の気持ちや状況をきちんと伝えることが大切なので、感情を抑えて、声の高さ(高い~低い)、声の強さ(強い~弱い)、声の明暗(明るい~暗い)を組み合わせることで、登場人物を豊かに表現します。

例えば、穏やかな人柄は「ゆったりとのんびりとした声」で、頼もしい人柄は「お腹から出した力強い声」で演じます。

「語り」

その場面の情景や状況が、聞き手によく分かるように伝えることが大切です。
例えば、「大きい」とか「重い」という様子は「一文字ずつゆったりと伸ばしながら」表現します。「急いでいる」とか「あわてている」という様子は、単語の間を詰めて表現します。

テクニックには、次のようなものがあります。

(1)  内容をしっかりと理解して、文章の句読点をきっちりと「間」に変換して話します。
(2)  アクションや顔の表情をつけると言葉は劇的に生き生きとしたものになります。
(3)  言葉をはっきりと発声しましょう。基本になる滑舌(かつぜつ)を身につける、全ての音の基本になる「あいうえお」の母音をしっかりと発音するといった練習がクリアな発声に役立ちます。
(4)  日本語は、五音と七音を中心に構成されています。その「五七五」のリズムを活かすことで、楽しい雰囲気になります。

「擬音」

声でいろいろな音を表現することは多いのですが、現実の音にこだわり過ぎないようにして、その音の特徴をつかんで表現します。

基本【2】間のとり方

①息つぎの「間」
文章の区切りのよいところで、息つぎをする。短めに息つぎをすることで、ゆったりした感じになって、情景や状況が伝わりやすくなります。

②場面転換の「間」
前の状況と話が変わる「おはなしが変わりまして」の「間」は、3秒から4秒ぐらいの「沈黙」の時間を開けます。改めて話し始める時には、出だしは高めのはっきりした声になるので、場面転換をしたと実感が出ます。

③ドラマを生かす「間」

(1)期待を持たせる「間」
(2)考えさせる「間」
(3)心理的な表現をするためにとる「間」
(4)登場人物の気持ちになって思いをためる「間」
(5)状況、情景を納得させる「間」
(6)余韻を残す「間」

*意味が違ってしまわないように、文を「区切る場所」を決めておく。
(例)
お母さんは笑いながら / 歩くお父さんに声をかけた
お母さんは / 笑いながら歩くお父さんに / 声をかけた

基本【3】抜き方

紙芝居は舞台(枠)から画面(絵)を抜いて、物語を進行していきます。その「抜く」という動きにも変化を付けることで、作品の世界を広げることができます。

(1)さっとすばやく抜く
(2)ゆっくりと抜く
(3)途中まで抜いて止めて、語りを入れる(止めるころに▲印や線をつけておく)
(4)画面をぐらぐら揺らしながら抜く
(5)画面をガタガタ動かしながら抜く
(6)画面をみぎひだりに少しだけ動かす(人物が正面に向かって歩いてくるように見える)
(7)画面を前後に小刻みに動かす(嵐の場面や風が吹いているように見える)

基本【4】おしまい

紙芝居の最後は「これでおしまい」と告げて、舞台(枠)の扉を閉める、あるいは幕紙にして、終わりにします。紙芝居の表紙に戻したりすることはしません。

参考資料
「紙芝居 演じ方のコツと基礎理論のテキスト」 子どもの文化研究所 編
「紙芝居 子ども・文化・保育」心を育てる理論と実演・実作の指導 子どもの文化研究所 編
「演じてみよう つくってみよう 紙芝居」 長野ヒデ子 編
「話しベタさんでも伝わるプレゼン」清水久三子 著
「こどもアナウンスブック」 常世晶子 茂木亜希子 著
「伝える力が身につく本ープレゼンテーション」山崎紅 著
「心をはぐくむ読み聞かせ」 杉山沙智枝 著 (小学館)

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