(7)テレビと紙芝居の共通点

1953年(昭和28年)2月にNHKが、そして8月には民放の日本テレビがテレビ放送を始めました。当時のテレビ受像機はとても高価で、庶民にはとても手が届くようなものではなかったため、当初は繁華街や駅、公園などに置かれていた街頭テレビに人々が群がって、力道山が活躍するプロレスなどのスポーツ放送に熱狂したのです。街頭テレビは「電気紙芝居」と呼ばれたこともありました。

テレビ放送が大衆メディアとして受け入れられていく一方、街頭紙芝居は衰退していきました。

テレビ放送は、情報を「短く」「視覚で」「正確に」伝えます。

テレビの視聴者がその番組を「見るか」「見ないか」を判断して、リモコンのチャンネル・ボタンを変えるのに要する時間はわずか3秒と言われています。つまり、ひと目で興味を喚起して、3秒でOKをもらわなければならないのです。

テレビの画面に「テロップ」と呼ばれる短い文字が流れることがあります。視聴者がハッとするかどうかがポイントで、文字数は2~3秒で読める16字以内とされています。

ニュース番組では「ただいま新しい情報が入りました」とキャスターが言いながら、渡された原稿を読むシーンがありますが、キャスターは数分でも事前に原稿に目を通していて、10秒でと言われたらその秒数で読むのだそうです。

紙芝居の題名と同じように、テレビ番組のタイトルも「思わず惹きつけられる」ものであることが必要です。
①タイトルだけで番組の内容がイメージできる
②タイトルでメインの出演者が分かる
③タイトルの文字数は10文字以内で

テレビのCMは15秒。「何がどうした」を紹介する番組の冒頭の「リード」も15秒です。
「つかみ3兄弟」と呼ばれるキーワードがあります。「お得感」「意外性」「期待感」です。
普通のものをすごいと印象づけるためには、人ならどう見られたいか、物ならどう売りだしたいかを考えて抜いて、「キャッチフレーズ」を作ります。

文字をビジュアルで代用すれば、情報を削ぎ落すことができます。

クイズ番組では、まず「映像をご覧下さい」から始めるのは、「映像の中にクイズのヒントがある」という演出をすることで、視聴者を惹きつけるためですが、視聴者にとってストレスになるような多すぎる情報を与えないようにもしているのです。

紙芝居でも、一枚の絵に対してのシーンの説明や登場人物のせりふは合わせても20秒までと言われます。紙芝居は絵が主役で、言葉(文字)は脇役という関係ですから、多くを語る必要はないのですが、言葉だけではなく、ビジュアルの絵もできるだけシンプルにする、つまり情報を削ぎ落すことが求められます。

人の記憶に必ず残る黄金ルールが「パワーオブスリー」「3」です。人が無意識に記憶できるのは、3つまでと言われています。クイズ番組では、答えを3拓から選びますし、トップ10では、10位から4位まではサクサクと紹介して、ベスト3は3位、2位、1位とじっくり見せていきます。

ベスト3を発表する時には、「めくりフリップ」という紙で答えを隠しておいて、司会者は見せたいタイミングでフリップをめくりながら答えを見せて、自分のペースで番組を進行できます。答えが隠れているので、ドキドキ感があって、特に子どもには効果が高いと言われます。

1枚のフリップで伝えられるのはメッセージひとつで、余白があったほうが大切なポイントを際立たせることができます。人間の習性で、文字を目で追う時には、上の左→上の右→下の左→下の右というZ型と呼ばれる動きになるので、その動きを意識した構図にします。

紙芝居の絵では、背景を細かく描かない、離れて見ていても分かりやすいように、登場人物の輪郭を太く濃く描きます。紙芝居は、めくりフリップの原点とも言えます。

話し方には、次のようなポイントがあります。
(1)ポジティブで美しい言葉を使って、印象を良くする
(2)見る、聞く、嗅ぐ、味わう、肌で感じるといった五感からの言葉で生き生きとした印象にする
(3)ゆっくりと話して、堂々としているように見せる
(4)呼びかけることで、聞き手の意識をそらさない
(5)読むのではなく、話すように伝える
(6)黙読ではなく、音読してみて、リズムが良いか、意味が分かるかをチェックする

使う言葉には、次のようなポイントがあります。
(1)難しい言葉は簡単なものに変える。熟語も別の平易な表現の言葉にする。
(2)「そして」「それから」「ところで」「さて」などのつなぎ言葉(接続詞)を使わない。
(3)「等(とう)」は「など」に、「市立」は「いちりつ」など、音読みは訓読みにする。
(4)オノマトペ(擬態語や擬音語)を使うと聞き手に感情が伝わりやすい。

紙芝居では作品の世界に聞き手が共感してくれることがもっとも大切とされていますが、共感をもたらすためには、まず自分の脳の「むずかしく考えるモードをオフにすること」そして、笑いが起こる「ユーモア」を駆使することが求められます。

テレビのバラエティ番組では、観客を入れて収録をおこなうのは、笑い声や拍手で場を盛り上げるためですが、それによって視聴者にも笑いが伝播することも狙っています。ひとりが笑えば、みんなが笑うというわけです。観客に対しては、「前説」という事前の説明で、どのタイミングで笑うか拍手するかが伝えられています。

プレゼンテーションの極致と言われるテレビ放送ですが、アドリブのフリートークのように感じる番組にも台本があって、細かく時間配分がされています。リハーサルを何回するかが、本番がうまくいくかどうかを左右すると言われます。

「なるようになる。でたとこ勝負でやろう」は失敗します。成功と失敗を分けるのは、もともと持っている才能の違いではなく、どのくらいしっかり準備をしたかだと言われます。

紙芝居でも、観客の反応を見ながら、臨機応変に語りやセリフをアレンジすることがありますが、それは「でたとこ勝負」でいいかげんにやるというわけではなく、本番を迎える前に、できるだけたくさんのリハーサルをする、そして想定問答集を作っておくことが勧められています。

参考資料
「プレゼンはテレビに学べ」 天野暢子著 ディスカヴァー・トゥェンティワン刊
「3秒でOKがもらえる『伝え方』の基本 天野暢子著 大和出版刊

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