命の義務教育 ペッザニア

動物介在教育
イギリスの教育誌「チャイルド・エデュケーション」(1993年1月)には、動物を取り入れた児童教育のカリキュラムが紹介されています。
(1)まず、子どもは自分が飼っている生き物について、子どもどうしで話し合いをします。
(2)次に自分が飼っている生き物の絵を描きます。(飼っていない子どもは自分の顔を描く。)
(3)飼われている生き物が教室に運びこまれ、その飼い主である子どもは他の子どもたちにその生き物について知っている知識や飼い方を説明します。
(4)人間と暮らす動物たちの生態について話し合いをします。
「動物は何を食べたり、飲んだりしているのか」
「活動するのは昼間か、夜か」
「休むときに必要なものはなにか、運動するときに必要なものはなにか」
「なぜ、動物を飼うときに、水槽やカゴなどが必要なのか」
「なぜ、犬は散歩させるときには、首輪とリードが必要なのか」
(5)動物を安全に飼うためにはどうすればいいか
「動物たちはどうやって自分たちを危険から守っているか」
子どもたちは、地球上には人間とともに暮らすさまざまな種類の生き物がいて、それぞれが生きるために必要とされる食べものや環境を持っていることを学びます。そして、生き残るためにいろいろな方法を身につけていることを知ります。
それまでは、「さわってみたい」とか「近くで見たい」といった自分の都合で、動物に接していた子どもたちも、自分の欲求よりも動物の気持ちを優先する思いやりを持つようになります。
ヒューマン・アニマル・ボンド研究の父レオ・ビュースタットは次のように述べています。
「私たちの周囲にある植物や動物は、われわれの身体の一部です。もし、私たちがそれらを排除したら、それは私たち自身の一部を破壊することになります。人は生涯、健康でいるためには周囲の植物や動物とかかわりを持ち、接しなければなりません。人と動植物との強い結びつきは、健康な社会にとって大切なことです。」
英国における動物ふれあい教育
生命の大切さを学び、思いやりの心を育むために、小学校で動物を飼育することを勧めていた時代が、日本にもありました。
しかし、同じ頃に、英国では夜間・週末・休日・休暇などで人がいないことが多い学校での動物の飼育は、好ましくないと考えられていたのです。
それは、1960年代後半に英国で提唱された動物愛護の基本的な考え方である「5つの自由」から来ています。
5つの自由(アニマル ウェルフェア)
① 飢えと渇きからの自由
その動物種・年齢・状態に適した食物と水を与えること
② 不快からの自由
その動物にとっての快適な環境を与えること
③ 痛み、負傷、疾病からの自由
動物が病気やけがに陥ることのないように健康管理をすること。病気やけがをしたときには、その時点における最良の獣医療を与えること
④ 恐怖や抑圧からの自由
動物に恐怖や多大なストレスを与えないようにすること
⑤ 本来の習性を発揮する自由
動物にとっての本来の習性・自然な行動が発揮できるように環境を整えること
英国王立動物虐待防止協会(RSPCA)の動物ふれあい教育の目標として掲げられているのは、「人・動物・環境に対する共感と尊重を育み、全ての生物は相互依存していることを理解する。」というものです。
基本的には、RSPCAは動物ふれあい教育を環境教育と捉えて、子どもたちへの早期教育を通して、生態系の中での自分たちの存在を認識し、環境意識が高まり、生命の価値を学び、道徳教育が促進され、子どもたちが生きる力を身につけられると提唱しています。
RSPCAはアニマル・フレンドリー・スクールを認証していますが、その取得には次のような条件が課せられています。
1. 動物ふれあい教育が授業に取り入れられているか
2. 学校の建物や校庭が動物にやさしくなっているか
3. 課外活動でも動物について学べるようになっているか
4. 校外学習で動物に関係のある現場に行くときにはどんなガイドラインがあるか
5. 学校はゴミをどのように扱っているか
動物についての教育、学校の環境管理、全ての生物に対する尊重と責任、動物と環境を取り巻く問題などについて考えられ、配慮されていなければ認証が得られないようになっているのです。
RSPCAでは、動物と接する場合の簡単な動物ルールを提唱しています。
* 全ての動物を尊重する
* 動物のニーズを理解する
* 動物に近づく時は静かに
* 野生動物には触らない
* 野生動物を持ち帰らない
* 石や枝を動かしたら元に戻す
* 動物と遊んだ後は手を洗う
鯨食(げいしょく)文化と反捕鯨運動
日本には江戸時代から続くクジラ肉の食文化がありますが、1982年に商業捕鯨の一時中止が国際捕鯨委員会で採択されて以来、調査捕鯨を除いては、クジラを捕ることができなくなり、クジラ肉は、日本の家庭の食卓からは姿を消してしまっています。
反捕鯨をかかげる国の人たちが、「クジラを食べるなんて、とんでもない」と言っていることに対して、日本が反論しているのも、日本という四方を海に囲まれた島国では、海洋資源であるクジラを食べることは古くからある食習慣なので、それを尊重して欲しいというものです。
もちろん、「海の野生動物であるクジラを絶滅から救え」という主張を無視するわけではなく、大食漢のクジラだけを過剰に保護すれば、海洋資源の枯渇につながりかねないという科学的なデータを示し、秩序ある捕鯨の再開を認めて欲しいと訴えています。
日本では歴史的に長い期間、畜肉を食べるのを禁じていました。しかし、クジラは魚と考えられていて、日本人にとっては貴重なタンパク源だったのです。イノシシは農作物を荒らす害獣として駆除されていましたが、その肉は「山クジラ」と称して、食べられていました。
強行に捕鯨に反対しているオーストラリアでは、ウサギ、カンガルー、ラクダなどの野生動物の増加による農業や畜産業への被害が深刻化していて、それらを駆除するためとして、「野生動物の食肉化」に力を入れています。
欧州からの移民によって持ち込まれたウサギは、18世紀以降に狩猟の標的として飼われていたものが野生化、現在の生息数は2~3億匹に達し、農作物に深刻な被害を与えています。
ラクダは、英国からの移民が乾燥地帯の内陸部での鉄道建設や電話線敷設の荷役作業に使うために、エジプトやイラク、インドなどから持ち込んだものが野生化し、2009年現在では120万頭に増加、さらに今後10年間で倍増すると予測されています。
そのような外来種だけではなく、オーストラリア固有の在来種カンガルーの増加による農業被害も深刻な問題となっています。
オーストラリア政府は、カンガルー・ミート(別名ジャンピング・ミート)の消費を推進していますが、ここにきて、「ラクダ肉を食べよう」というキャンペーンも始めました。
そのような政府の害獣の食肉消費キャンペーンに対して、国内の動物保護団体は、「捕鯨に反対しながら、カンガルーを殺すのは二重基準であり、矛盾している」と非難の声を上げています。ラクダの駆除とラクダ肉の消費キャンペーンが本格化すれば、さらに批判は強まるだろうと考えられています。
クジラのアニマル・ライトを擁護する動物愛護団体としては、野生動物のカンガルーや野生化したラクダたちは駆除してもかまわないとすれば、自己矛盾をきたすことになります。
しかし、オーストラリアの基幹産業である農業を守るために、害獣は駆除せざるを得ず、「それでは自文化中心のご都合主義だ」との批判を浴びかねません。
つまり、動物愛護は、無意識ながら自文化中心主義あるいは、同時代文化中心主義的な固定観念に捕われた、偏ったものになっている可能性があることを示唆しています。